4.特許出願するメリット
なぜ特許出願する必要があるのでしょうか。
特許権を取得するためです。では、何のために特許権を取得するのでしょうか。これには特許制度が必要か否かという歴史的課題が含まれています。特許権とは独占権です。独占権は第三者の使用を許さないという強力な権利であり、特許権は技術という思想を独占し、その実施に伴う経済的利益を独占します。特許権を取得しますと、その発明は特許権者以外の第三者は使うことができません。無断で第三者が使用しますと、特許権の侵害となり、差止請求や損害賠償請求の対象となります。
そうであるならば、国家としてそのような強力な独占権という特許権を優れた発明に与えることは、特定の個人に利益が集中し、世の中で広く利用されることを妨げるから特許権を認めるべきではないという否定的見解があります。特に医療分野のように、人間の生死に係るものに特許権という独占権を与えて特定個人に利権を集中させることは害あって益なしともいえます。 しかし、もし優れた発明をしても、その発明者個人にとって社会的に格別の利益が見込めないようであれば、発明者はその利益を独占するため、なるべく発明の中身を分からないように隠そう隠そうとするでしょう。人にわからないように秘密を保持できれば、模倣品を防ぐことができますので、発明の独占状態を長年に亘り維持できます。このような秘密主義がはびこりますと、累積的発展という形態をもつ技術開発は死滅に向かうでしょう。
イギリスに始まった産業革命は特許制度と相まって飛躍的発展を遂げ、今日の世界を生み出しています。その成功例の最たるものが米国です。デモクラシー(Democracy:一般大衆の代表に権力を掌握させる代議制民主政治であり、神聖政治Theocrayに対立する概念)を標榜する米国憲法は、当初からその第1条第8項に特許に関する権限を議会に委任し、これに基づき連邦法としての特許法を制定しています。
このように特許権という独占権を一定期間、発明者個人に付与することは、発明の秘密主義を解消し、発明を世の中に広く伝え、その利用を通じて社会の発展を促し、同時に発明者個人に経済的利益をもたらし、更なる発展が期待できます。このような歴史的事実は、21世紀の国際社会で主要な地位を固めつつある中国において顕著であり、10億人余の人口を要する中国が現在特許大国への道を進んでおり、いずれ特許の世界においても先進国の仲間入りを果たすことは間違いありません。とはいいましても、発明は個人の生み出すものであり、これほど個人の資質が影響するものはありません。
ちなみに米国特許法は発明者個人を極めて重視しており、特許出願は発明者しかできません。企業は、特許出願後に発明者から譲渡を受けて初めて出願人になることができます。ですから米国特許は発明者が前面に出ており、特許権の通称として「Smith特許」というように、発明者の名前を冠して呼ぶ慣習があります。民主中心主義の国としては当然のことなのでしょうか。
日本も最近は発明者を重視しているのかなと思われる点もあります。特許権の設定登録が行われますと、特許証が発行されます。特許証を見ますと、発明者の氏名がデカデカと書かれています。それまでは出願人と発明者は同じ大きさの字でしたが、いまは4倍も大きな字になっています。
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